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TOBAJIN vol.02 濱口ちづるさん

鳥羽は500人以上もの海女が活躍する、日本一海女さんが多い街。
今回の鳥羽人、濱口ちづるさんもサザエやアワビを採る現役の海女さん。
鳥羽市の離島、答志島で生まれ育ち、『島の旅社』で離島旅のプロデュースも手がける“島のかあちゃん”に、
海女としての生き方と離島の魅力を語ってもらいました。

自然に合わせる覚悟が決まったとき、海女でいいんだと思えた

「幸せっていうか、ラッキーですね」

幼いころから答志島の海で潜っていた濱口さんが、今、海女として生きている自身についてそう表現した。

「自然に合わせる覚悟を持てたことがラッキーでした。自然とじっくり向き合って、場合によっては一日のほとんどを待つ時間に費やす心構えがないと採れないし、今日はいつ、どこでたくさん採れるかという勘も身に付かないと思います」

NHKの連続テレビ小説『あまちゃん』では“観光海女”の存在にスポットが当たったが、鳥羽で潜る濱口さんたちは“商業海女”。実際に採らなければ稼ぎはない。

人生でもっとも短い1時間半

海女は自然相手の過酷な仕事というイメージがあるが、実際に潜っているときは何を感じているのだろうか。

「とにかく夢中! 1回につき1時間半潜りますが、それはもう自分の人生でもっとも短く感じる1時間半ですね。『海女さんって海の中では孤独でしょ?』なんて言われますが、ぜんぜんそんなことはないですよ。孤独を感じるヒマもない(笑)」

毎回が命をかけた真剣勝負。それだけに海女として生きることに強い誇りを持っている。

「自分の採ったモノに自信を持っているし、それで稼いでいるという自負もあります。海女漁は古くから続いているので、もしかすると日本の歴史で一番古い女の人の自立した仕事かもしれないって思っているんですよ。先人たちに感謝ですね!」

2016年に伊勢志摩サミットを控え、世界的にもめずらしい海女漁が持続可能な漁業文化としてスポットを浴びるかもしれない。

「答志って、だいたいのことはアバウトなんですけど、海女漁に関するルールはとても厳密です。漁場の境界線だったり、獲ってはいけないサイズだったり。私たちはやみくもに採るのではなく、資源を守りながら漁をしているというプライドはありますね」

離島が鳥羽のおもてなしを生んだ

鳥羽の魅力について濱口さんに尋ねてみると、真っ先に挙がったのはやはり離島のこと。

「4つの離島の並びが神秘なんですよ。答志島、菅島、坂手島、神島が絶妙な位置にあることで、それぞれが停船場所になり、鳥羽が伊勢湾の入り口として発展したのではないでしょうか」

鳥羽は江戸時代に江戸と大阪を結ぶ海路の“風待港”として栄え、それが戦後に観光港としてにぎわう流れへとつながった。

「だから、この並びの離島がなければ、鳥羽は今とはまったく違う街だったのかもしれません」

「違う街」とは単に街の栄枯を指すのではなく、鳥羽のおもてなし文化や観光資源も含めてのことだと濱口さんは考える。

「港町として栄えたことで、いろいろな地域から船で来る人たちをもてなす文化が鳥羽に根づき、現在の観光にも受け継がれていると感じます。強いて言うなら、海を中心としたおもてなしですね。参拝者が集まるお隣の伊勢のおもてなしともまた違うので、近年は鳥羽ならではのおもてなしを求めて、伊勢から足を伸ばしてくださる方が増えたのだと思います」

お客さまを喜ばせ、島の人たちを元気

海女漁のかたわら、『島の旅社』のメンバーとして、離島ならではの旅をプロデュースしている濱口さん。鳥羽の中でも、離島の魅力とは何だろうか。

「その島々に色濃く残る、独自の文化や暮らしでしょうか。例えば答志島なら、細く入り組んだ路地を見ただけで都会からのお客さまは驚きますし、『みんなカギはかけません。外出中に誰かが魚を冷蔵庫に入れてくれるので』と説明すると笑いやどよめきが起こるんですよ」

島民にとってはありふれた日常でも、観光客の目には興味深く映る。いわば島の生活そのものがコンテンツとなるため、濱口さんのツアーでは、ありのままの暮らしや文化の紹介にこだわっている。

「島の路地裏を散策しながら、島民が普段食べている物をつまみ食いするツアーが特に人気ですね。もともとは路地裏の案内中、島の人が『これ食べていきな』ってふるまってくれたことがきっかけでした」

暮らしや食のみならず、島民たちの人柄まで感じられるツアー。ちなみにつまみ食いの後は海女小屋に移動し、いろりで海女さんさながらに海の幸をいただくのだという。

「答志島だけでも、他にも狭い路地用の自家用車“じんじろ”、軒先に書かれた八幡神社の“マルハチマーク”、実の親以外に大人の世話役が付く“寝屋子制度”など、めずらしい文化や風習がたくさんあります。そんな島の魅力を紹介することで、お客さまが喜び、島民は誇りを持って元気になる、そんな好循環を作っていきたいですね」

プロフィール

濱口 ちづるさん

鳥羽市の離島、答志島で生まれ育ち、現在はサザエやアワビを採る海女として活躍。また、『島の旅社』の推進協議会メンバーとして、離島ならではの旅をプロデュース。文化、自然、食といった離島の魅力を観光客に伝えることで、地域の活性化を目指している。